明日は我が身？歯科医療における裁判について

歯科医師に限らず、医療職の仕事は訴訟と隣り合わせと言える時代かもしれません。
実際に、過去に起こった歯科医療関係の裁判も、原告がモンスター患者と言えそうなものから、被告が歯科医師の風上にも置けないものまでさまざまです。

「ファーストナビ」では、過去に起こった歯科医療関係の裁判の代表的なものについて、簡単な内容と裁判結果についてまとめました。

事例１（抜歯後の細菌感染）

• 民事訴訟
• 管轄裁判所:横浜地裁
• 時期:平成元年3月
• 概要: 入院中に歯痛を訴えた患者に対し、安易に抜歯を許し、また適切な事後処理を講じなかったために細菌感染し、敗血症を併発した事例です。
  当該患者は、全身性エリテマトーゼスという血管・結合組織における系統的疾患を抱えており、当然に感染症には注意すべきでした。
• 判決:棄却

事例2（抜歯が原因の骨折）

• 民事訴訟
• 管轄裁判所:東京地裁八王子支部
• 時期:平成元年4月
• 概要: 左下の親知らずを抜歯したのち、食事をとった際に左下顎に激痛を感じ、他病院を受診したところ左下顎骨骨折と診断された事例です。
  抜歯行為が骨折の原因であるとして損害賠償請求を行いました。
• 判決:棄却

事例3（下顎骨の部分切除）

• 民事訴訟
• 管轄裁判所:東京地裁
• 時期:平成2年2月
• 概要: 抜歯後に抜歯後感染、抜歯窩治癒不全と診断された患者が抜歯窩再掻爬の治療を受けたものの症状が改善せず、微熱と鈍痛が続くために他の病院を受診しました。
  その結果、下顎骨慢性硬化性骨髄炎と診断され、下顎骨を部分切除されることとなった事例です。
• 判決:棄却

事例4（乳歯落下による気道閉塞）

• 民事訴訟
• 管轄裁判所:浦和地裁熊谷支部
• 時期:平成2年9月
• 概要: 歯科医師が当時4歳の患者から抜去した乳歯を口腔内に落下させてしまい、さらにその際に患者を水平位から座位におこした結果、乳歯が口腔内から気管内に落下して気道閉塞を起こした事例です。
  患者は窒息死する結果となってしまいました。
• 判決:4595万円認容（逸失利益、慰謝料、葬儀費用、裁判費用）

事例5（ブリッジ（加工義歯）離脱）

• 民事訴訟
• 管轄裁判所:京都地裁
• 時期:平成4年5月
• 概要: 欠損歯についてブリッジによる補綴治療を受けた患者が、その後2回にわたりブリッジが離脱し、その都度再度のブリッジ補綴を受けるに至った事例です。
  度重なるブリッジの離脱はブリッジの設計、制作上のミスが原因であるとしました。
• 判決:60万9520円認容（補綴治療の代金、慰謝料）

事例6（義歯の欠陥）

• 民事訴訟
• 管轄裁判所:大阪地裁
• 時期:平成5年4月
• 概要: 制作した義歯に構造上欠陥があるために上顎義歯がはめてもすぐにずりおち、制作しなおした義歯も食事の際や、会話の際にも落ちるレベルであったという事例です。
  また、歯科医師が適切に治療をしなかったために歯周病が進行し、小臼歯2本を抜歯する結果となりました。
• 判決:256万円認容（義歯の代金、慰謝料）

事例7（インプラント（人工歯根技術）施術の過失）

• 民事訴訟
• 管轄裁判所:東京地裁
• 時期:平成5年12月
• 概要: 骨膜下インプラント治療を受けた上顎無菌症患者が、インプラント治療後に咀嚼能力がおちた事例です。
  過失によって、顎骨の安定前に上顎全体に骨膜下インプラントを施術したとしました。
• 判決:3143万846円認容（逸失利益、慰謝料）

事例8（投薬の間違い/業務上過失致死罪）

• 刑事訴訟
• 管轄裁判所:福岡高裁
• 時期:昭和40年2月
• 概要: う蝕治療で抜歯をした患者に対して、歯科医師が鎮痛剤としてセデスを投薬しようとしたところ、間違えて劇薬である塩酸コカインを渡してしまった事例です。
  患者は塩酸コカインを服薬し、死亡しました。
• 判決:禁固10月、執行猶予3年　※一審である福岡地裁小倉支部の判決（昭和38年11月）は無罪

事例9（全身麻酔後の経過観察怠慢/業務上過失致死罪）

• 刑事訴訟
• 管轄裁判所:最高裁
• 時期:昭和48年9月
• 概要: 全身麻酔による抜歯等の手術を行った歯科医師が、患者（当時5歳）を麻酔からの覚醒前に帰宅させたうえ、その後の経過観察や応急処置等も怠ったという事例です。
  患者は麻酔の副作用により死亡しました。
• 判決:禁固4月、執行猶予2年