【訪問歯科診療】歯科医師が知っておくべき、よくあるトラブルまとめ
日本の高齢化に伴い、歯科医療も外来だけではなく、訪問診療の需要が増えています。
歯科医師の先生の中にも、開業医として近年訪問診療を開始されていたり、訪問診療を開始した歯科医院にお勤めの方もいらっしゃるかもしれませんね。
また、これから訪問診療を開始したい、チャレンジしたいという歯科医師の方もいらっしゃるかもしれません。
「ファーストナビ」では訪問歯科診療を行う際に歯科医師が気を付けたい、よくあるトラブルについてまとめました。
※日本訪問歯科協会の資料より一部抜粋しています
訪問歯科診療でよくあるトラブル一覧
- >>車椅子の操作に関するトラブル
- >>誤嚥に関するトラブル
- >>器具等の落下によるトラブル
- >>費用や治療期間に関するトラブル
- >>患者の不在によるトラブル
- >>訪問予定時間に間に合わなかったことによるトラブル
- >>家族間の意見の相違によるトラブル
訪問歯科診療でよくあるトラブルの具体例と予防策
車椅子の操作に関するトラブル
訪問歯科診療の患者さんには、車椅子を利用している方も多くいらっしゃいます。
しかしながら、歯科医師、歯科衛生士を含め、歯科医院の従業員は必ずしも車椅子の操作になれているとは限りません。
車椅子のレバーを歯科医院のユニットのレバーと同じように操作してしまうと急にガクンと患者さんが後ろに倒れてしまい、思わぬ怪我につながることもあります。 言うまでもなく、患者さんに怪我をさせてしまったり、させそうになってしまうとトラブルの原因になります。 車椅子のモデルによっては、急に後ろに倒れないように設計されているものもありますが、患者さんによって使っている車椅子はさまざまなので、車椅子の操作にはくれぐれも注意したいところです。
車椅子の操作に関するトラブルの予防策
- 車椅子の操作について練習しておいたり、実習を受け操作の経験をする
- 2人以上で操作し、患者の後ろにアシスタントを配置する
- 車椅子を倒す際、「今から倒しますよ」と声掛けをし、ゆっくりと倒す
誤嚥に関するトラブル
訪問歯科診療では院内での外来診療と比較して診療姿勢が確保しづらく、誤嚥のリスクが高まります。
さらに、誤嚥してしまった場合にすぐにX線画像診断などを行うことも難しいことが多いという問題もあります。
誤嚥したあとの処置
- 誤嚥したものや位置の確認
- 除去の可能性の検討
- 場合によっては救急車の手配 など についても予めイメージしておいた方がよいでしょう。
誤嚥に関するトラブルの予防策
- 体を起こし、頭を固定する
- 患者の咽頭部が開いているかを確認する
- 患者の体がすべらないように、ベッドにタオルを敷いたり車椅子のヘッドレストを工夫する
器具等の落下によるトラブル
訪問歯科診療の場合、歯科医院内とは違い、いつも同じ場所に同じものがあったりするわけではなく、勝手が違うことも多いので、器具や薬品などを落としてしまう可能性があります。
個人宅の床を傷つけたり、家のものを壊してしまったり、患者さんに怪我をさせてしまうとトラブルの原因になります。
歯科診療のために持ち込んだ機械や、もともと家にあった家電などのコードにつまずいて器具等を落下させてしまうこともありますので、注意が必要です。
器具等の落下によるトラブルの予防策
- 高い場所や不安定な場所にはなるべく物を置かない(特に重いもの)
- コードが絡んだり、コードに躓かないようにしっかり確認する
- 患者の体をしっかり固定する
- シートを敷くなどして、薬品等がこぼれた際のリスクヘッジをしておく
費用や治療期間に関するトラブル
歯科医院と患者との、特に初期のコミュニケーションに齟齬があった場合、患者さんやその家族から
- 「思ったよりも治療費が高かった」
- 「そんなにかかると知っていれば利用しなかった」
- 「いつまでかかるのかわからない」 などの不満が出てくることがあります。
そもそも説明をしていない(ということはないのでしょうが)、あるいは説明を理解していない場合、あとからトラブルになる可能性があります。
費用や治療期間に関するトラブルの予防策
この手のトラブルは言った言わないになることが多いので、なるべく重要なことは記録したり、書面に残すことが大事です。
- 費用については治療開始前に料金表を渡す
- 期間についてはスケジュールや計画書を渡す というったことでトラブルの可能性を低くすることができます。
また、案内時に患者さんと2人きりだと、言った言わないになりやすいと考えられます。
なるべく2人きりにならないように気を付けましょう。
そのため、訪問は1人では行わず、スタッフと同行した方がよいと思います。
また、特に初回や重要な説明をする場合には、担当のケアマネジャーや看護師など、第三者に同席をしてもらうことも有効です。
患者の不在によるトラブル
訪問歯科診療に訪れた際に、患者宅が留守であった、ということも考えられます。
こういったケースは、多くの場合、患者さんが日程を間違って認識していたり、忘れてしまっていることが多いようですが、中には、体調を崩して入院してしまっていたケースもあるようです。
わざわざ訪問して患者さんが不在だった場合には、歯科医院として時間を大きくロスしてしまいますので、しっかりと対策すべき問題です。
患者の不在によるトラブルの対応策
多くの場合、前日に確認の連絡を入れることで回避することができます。
また、あわせてカレンダー等に訪問日に印をつけてもらうよう患者さんに頼んだり、患者さんや家族に都合が悪くなった際などには必ず歯科医院に連絡するよう約束してもらうことも有効です。
訪問予定時間に間に合わなかったことによるトラブル
訪問歯科診療の予定時間に担当歯科医師が間に合わなかった、というクレームは実はかなり多いです。 訪問歯科診療は車で訪問することも多いので、道路の込み具合などで予定通りに到着できないことも予想できます。
しかし、自宅で診療を待っている患者さんは非常に時間に敏感であることもあり、5分、10分の遅れであってもクレームに発展してしまうケースもあります。
また、駐車スペースを探して遅れてしまうケースもありますので、事前の確認が必要です。
訪問予定時間に間に合わなかったことによるトラブルの予防策
- あらかじめ、予定の時刻通りに訪問できないことがある(遅れることがある)ということを伝えておき、理解してもらう
- 数分でも予定の時間に遅れそうな場合には、移動中に携帯電話からその旨を連絡する
- 患者宅への駐車の可否、近隣の駐車場の状況などを確認しておく
家族間の意見の相違によるトラブル
患者本人や家族間において、意見が一致していないこともありえます。
また、訪問歯科診療についての理解の度合いもまちまちです。
どの程度しっかりと治療、ケアをしていきたいのかの方向性や、費用についての考え方も、患者本人や家族の意見を十分に聞いたつもりでも、他の家族からまったく別の意見が出てくるかもしれません。
家族間の意見の相違によるトラブルの予防策
- 患者や家族の意見が、家族間全体の総意なのかを確認しておく
- 家族の中で、特に意思決定に影響力の大きいキーパーソンを確認しておく
- 場合によってはケアマネジャーなどに相談し、家族についての情報を得ておく